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たばこが原因の病気あれこれ

医療・健康
2022.12.26

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たばこによる健康被害

2016年に厚生労働省が公表した「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」、いわゆる「たばこ白書」では、たばこの健康影響に多くのページを割いています。
まず、喫煙を起因とする年間死亡数は世界では喫煙者が約500万人、日本では約13万人と考えられています。受動喫煙によって亡くなられる人は世界では約60万人、日本では約1万5千人と推計されています。
ここで亡くなられている人の直接の死因はがんや心筋梗塞などの病気になります。たばこを吸わなければこれらの病気にならずに済んだかという問いへの明らかな答えはありませんが、たばこがこれらの病気の発症に大きく関与していることはこれまでの多くの研究からわかっています。

「たばこ白書」ではたばこの経済分析も行っています。喫煙の経済への影響として、たばこ産業や関連の産業の利益、たばこ税の収入よりも喫煙によって病気になった場合の医療費の支出のほうが大きいとしており、医療経済研究機構の試算では総額4.3兆円の損失となります。病気によってこれまでの仕事を続けられなくなる、看護・介護に時間を割かれるため家族の経済活動が制限されるなどもマイナス要素となります。さらに、病気で重症化して亡くなってしまったら、残された家族の心に悲しみという負の遺産が託されてしまうのです。

たばこがもたらす病気

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たばこがもたらす健康への影響については国内外でさまざまな調査・評価が行われています。日本では国立がん研究センター社会と健康研究センターが中心に喫煙とがんとの関連を科学的根拠に基づいて包括的に評価しています。評価レベルは以下になります。「レベル1」と評価された因果関係が強いものを中心にたばこと病気の関係をみていきます。

レベル1:科学的根拠は因果関係を推定するのに十分である
レベル2:科学的根拠は因果関係を示唆しているが十分ではない
レベル3:科学的根拠は因果関係の有無を推定するのに不十分である
レベル4:科学的根拠は因果関係がないことを示唆している


■がん
日本人の2人に1人がかかるといわれているがん。日本人の死因のトップでもあります。
喫煙者とがんの因果関係については、がんの種類によって異なりますが、「レベル1」と考えられているものに、肺がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、鼻腔・副鼻腔がん、食道がん、胃がん、肝がん、膵がん、膀胱がん、子宮頸がんがあります。たばことの関係性をイメージしやすい肺がんや喉頭がんから、イメージが結びにくい膀胱がんや子宮頸がんまで多岐にわたっています。
2019年に新たに肺がんと診断された人は126,548例(男性84325例、女性42,221例)1)で、2020年に肺がんによって亡くなられた人は75,585人(男性53,247人、女性22,338人)2)です。がんを死因とするもののなかでも肺がんによる死亡者は多く、男性では1位、女性では2位となります。治療の発展とともにがん患者さんの5年相対生存率は向上していますが、肺がんはいまだ予後の厳しいがんといえるでしょう。
受動喫煙に関しても、肺がん、乳がん、鼻腔・副鼻腔がんは因果関係があるとみなされています。

■循環器疾患
⾎液を全⾝に循環させる⼼臓や⾎管などが正常に働かなくなる病気を循環器疾患といいます。心臓の血管がつまれば心筋梗塞、脳への血管がつまれば脳梗塞でどちらも命にかかわる病気です。この領域の病気で「レベル1」と考えられているものは、虚血性心疾患、脳卒中、腹部動脈瘤、末梢性の動脈硬化症です。
末梢性の動脈硬化症は、下肢の動脈が狭くなったりつまったりすることで足の先にまで血液が流れなくなる病気です。そうなることで「力が入らない」「痛い」「足がつめたい」などの症状が現れます。適切な治療を行わずに病気が進行すると、壊死が生じて最悪の場合足を切断せざるを得なくなります。また、たばこを吸う本数が多いほど足の切断や死亡が増加する3)といわれています。
受動喫煙の場合であっても、虚血性心疾患と脳卒中との関連については「レベル1」という評価となっています。

■呼吸器疾患
呼吸器疾患の「レベル1」のなかでもとくに注意すべきなのはCOPD(慢性塞栓性肺疾患)です。COPDの最大の原因は喫煙で、喫煙者の15-20%が発症するといわれています。2019年にWHO(世界保健機関)が発表した資料によれば、COPDは世界の死因の3位です。喫煙により非常に多くの方の命が奪われています。
COPDと受動喫煙との因果関係は「レベル2」となっていますが、因果関係が否定されたわけではありません。

■糖尿病
喫煙がもたらす2型糖尿病への影響についても「レベル1」の評価がでています。2型糖尿病は重症化するとさまざまな合併症を引き起こし、著しくQOL(生活の質)を低下させます。2型糖尿病の予防には食事や運動など生活習慣全般の見直しが必要だといわれていますが、喫煙という生活習慣も見直すほうがよさそうです。

■そのほかの病気
ほかに歯周病への影響についても「レベル1」の評価となっています。歯周病にかかるリスクとして、1日10本以上喫煙すると5.4倍に、10年以上吸っていると4.3倍になるといわれています4)。また重症化もしやすくなるとのことです。

■母子への受動喫煙の影響
子どもが被るたばこのリスクについては、ぜんそくなどの呼吸器疾患との関連性があります。また、妊婦の喫煙が胎児に与える影響として、乳幼児突然死症候群(SIDS)との関連性の高さが指摘されています。SIDSは事前の予兆や病気との関連性もみられない乳幼児が睡眠中に死亡する病気です。寝る前まで元気だった子が突然死をするという悲劇は避けたいものです。厚生労働省では、対策として次の3つをあげています。
1. 1歳になるまで、寝かせるときはあおむけに寝かせましょう
2. できるだけ母乳で育てましょう
3.たばこをやめましょう
これらはSIDSの研究者が行った調査から導かれたものです。「たばこ」については、SIDS発生の大きな危険因子と捉えています。
妊娠中の喫煙は胎児の体重が増えにくくなりますし、呼吸中枢にも明らかによくない影響を及ぼすと考えられています。
妊婦自身の喫煙はもちろんのこと、妊婦や赤ちゃんのそばでの喫煙は控えたほうが賢明と思われます。


1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
2)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
3)日本循環器学会,日本血管外科学会 2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン 2022年8月
4)特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会ホームページ「歯周病と煙草の関係」

参考
厚生労働省「e-ヘルスネット[情報提供]」,喫煙
厚生労働省「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」平成28年9月2日
がん情報サービス,たばことがん
一般社団法人日本呼吸器学会 呼吸器の病気「慢性塞栓性肺疾患(COPD)」

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