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違法薬物、すぐそこにある危機

医療・健康
2024.4.30

他国に比べれば違法薬物を使用している人は少ないのではないかと思われる日本ですが、だからといって違法薬物が遠い世界の話というわけではありません。ほんのささいな好奇心から違法薬物に手を出し、これまで築いてきたキャリアを失ってしまった人……何名かお名前が思い浮かぶのではないでしょうか。そう、違法薬物はすぐそこにある危機として認識しなくてはいけない問題です。

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日本における違法薬物の状況

日本で最も使用されている違法薬物は「覚せい剤」です。覚せい剤は使い続けているうちに幻覚や妄想、意識障害などが現れます。また、「大麻」を使用し続けることでも同様の精神症状が現れます。そして、これまで通りの社会生活を送ることが困難になってしまうのです。違法薬物は使用する本人の心身を害するだけではなく、家族など身近な人たちにもつらい状況を強いることになります。
コロナ禍の2021年に実施された一般住民を無作為に抽出して行われた全国調査1)(3,611 名から調査票を回収し、重複回答や除外基準に合致する者を除いた計 3,476 名を有効回答とする)によると、社会における違法薬物の状況は以下のようになります。

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これまでに1度でも違法薬物を使用した経験があるという「生涯経験率」ですが、大麻、MDMA、コカインでは30-39歳、覚せい剤、危険ドラッグでは40-49歳が最も多く、どちらも働き盛りの世代です。また、男女比では、いずれの薬物でも男性に多く、これまでの同調査と比較すると、男性で上昇、女性で横ばいという傾向がみられました(男性で減少はコカインのみ)。
これまでに1度でも違法薬物の使用を誘われたことがあるという「生涯誘われ率」は、生涯経験率に準じた傾向がみられます。また、「入手可能か」という問いに「はい」と答えた人が多い薬剤は、経験率も誘われ率も高い大麻です。つまり大麻は非常に身近なところにあると多くの人が感じていることがわかります。
また、解熱鎮痛剤などの市販薬を乱用する人が上昇傾向にあります。普通にドラッグストアなどで入手できる市販薬を大量摂取することで起こる健康被害も増えています。解熱鎮痛剤の乱用経験率は全世代で0.57%、そこから推計される人数は約51万人。15-19歳の若年層で高く、性別では女性に多い傾向があります。市販薬ですから入手しやすく、罪悪感も低めということで、今後さらに使用率が増えるのではないかと危惧されています。

薬物依存症かも?って思ったら

違法薬物はもちろん、合法の薬であっても本来の適応を外れて使用した場合、いつしかその薬剤なしではいられない「依存症」になることがあります。
「薬物を使用することはよくないことだと理解しているのに、また使用してしまう」。このような状況に気づいたら、依存症を疑い、専門医療機関や自治体ごとに設置されている精神保健福祉センターなどの専門相談窓口に相談しましょう。
家族や親しい人に対して、「薬物を使用しているのではないか」と疑念をいだいたときも、精神保健福祉センターなど心の問題を取り扱う公的機関に相談するとよいでしょう。家族だけでも相談することは可能です。違法薬物が疑われる場合には「警察に逮捕されるのではないか」と心配し、家族以外の人へ相談することをためらいますが、専門機関の職員は守秘義務を負っていますので、家族だけで抱え込まないで、専門家の意見を聞いてみましょう。
薬物依存症は病気です。適切な治療とケアを受けて回復を目指します。

薬物依存症の治療

薬物依存症に限らず、依存症の治療には時間がかかります。
脳の神経回路に「薬物=快楽」と刻まれたものは元には戻せません。しばらくやめていても何らかのタイミングでスイッチが入ると、また薬物の使用をしてしまうことがあります。したがって、治療はそのスイッチを入れないようにするために学び、努力をしていくことになります。
このように依存症に立ち向かおうとするとき、本人は周囲から孤立しているかもしれません。海図ももたずに夜の海に一人で船出をするような心細さを感じながら治療を始めても、それは非常に厳しい航海になります。近くの港の灯りに吸い寄せられて、治療を断念してしまうかもしれません。依存症の治療では、本人を孤立させてはいけないといいます。医療機関、精神保健福祉センター、自助グループ・回復支援施設、ときには司法の協力も得ながら連携して支えていくことが求められるのです。
さらに、薬物依存症にならないための予防教育というものの重要性も語られています。まずは、違法薬物に手を出さないことが大切ですが、もし手を出してしまった場合、依存が深くなる前にやめられるように周囲が気づいてあげられるとよいでしょう。

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1)嶋根卓也,ほか:厚生労働行政推進調査事業費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業)「薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究」令和 3 年度 総括・分担研究報告書, 2022
【参考】
・松本俊彦,「薬物依存症」,ちくま新書,2018
・松本俊彦監修,「依存症がわかる本」,講談社,2021
・西川京子,「依存症 家族が支えるQ&A アルコール・薬物・ギャンブル依存症 家族のメッセージを添えて」,解放出版社,2018

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