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ご存じですか? 骨卒中 突然起こる骨折で高齢者の死亡リスクが大きく上昇!

医療・健康
2025.11.20

脳卒中といえば、突然脳の血管が塞がれたり破れたりして脳の機能に異常をきたす病気のこと。脳卒中という言葉を耳にしたとき、多くの人がおおよそどんな病気であるかは想像できるのではないでしょうか。では、「骨卒中(こつそっちゅう)」という言葉をご存じでしょうか。これは高齢化が進むなかで近年目にする機会が増えてきた造語ですが、いったいどのような病気でしょうか。骨卒中を防ぐためにどんなことに取り組めばよいのでしょうか。予防のポイントも紹介します。

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骨卒中ってどんな状態?

「脳卒中」という言葉はごく当たり前のように使われていますが、「脳」はともかく「卒中」は普段あまり使う機会のない言葉です。「卒中」とは、卒中風(卒然として邪風に中(あた)る)という古い中国の言葉を略したもので、「悪い風があたったように突然症状が起こる」という意味があります。脳卒中という言葉自体は、それ自体が病名ではなく、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など脳の血管が詰まったり、破裂したりして突然発症する脳血管疾患を指します。日本では「卒中」という言葉が脳卒中を示すものとして使われることもあります。

では、骨卒中はどのような病気を指しているのでしょうか。骨に突然起こる代表的なものには骨折がありますが、なかでも骨卒中は骨粗鬆症が原因で大腿骨や背骨に起こる骨折のことを指します。「骨が折れるのは骨折という病名があるのに、なのになぜ骨粗鬆症が原因の骨折だけが骨卒中と呼ばれるようになっているのか」と疑問を感じる人もいるかもしれませんが、それこそが骨卒中という造語が生まれた理由でもあるのです。

高齢者の骨折はなぜ治りにくいのか

骨折は、大きく分けると10代と50歳以降に増加するものですが(図1)、年代によってその成因は異なります。10代での骨折は主に外部から大きな力がかかったり、くり返し力が加わったりすることで起こり、部位によって差はあるものの、成人以降の人の骨に比べて治りやすいといわれています。その大きな理由としては、成長期にある子どもは骨形成が盛んで骨自体に柔軟性があるためです。

図1  骨折の年齢別推計患者数

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※頭蓋骨および顔面骨の骨折、頸部、胸部および骨盤の骨折(脊椎を含む)、大腿骨の骨折、その他の四肢の骨折、多部位および部位不明の骨折の合計

【出典】厚生労働省:令和5年患者調査 推計患者数,性・年齢階級(5歳)×傷病小分類×施設の種類×入院-外来の種別別(総数)e-Stat政府統計の総合窓口
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450022&tstat=000001224321


これに対し、中高年以降は骨代謝のバランスが乱れ、加齢とともに破骨細胞のはたらきが優位になっていきます。骨芽細胞によって新たにつくられる骨よりも破骨細胞のはたらきによって壊れていく骨のほうが多くなることで、徐々に骨量が減少してしまいます。この状態が進むと骨粗鬆症になります。

骨粗鬆症は、自覚症状もなく進行するため軽い転倒でも大腿骨を骨折する、背骨が押しつぶされる圧迫骨折などを起こしやすくなります。つまり、骨粗鬆症が進行した高齢者の場合、同じ「骨折」といわれるものでも、10代のそれとは性質が異なるということです。そのため、若年者の骨折とは分けて、骨粗鬆症が背景にある「骨卒中」として考えることが重要となります。

●死亡リスクが高い骨卒中
骨卒中は治りにくいだけにとどまりません。大腿骨頸部を骨折するとわずか1年で5~6人に1人が死亡し、背骨を骨折した人は、していない人に比べて死亡リスクが6~7倍にのぼるといわれています。

また、死亡に至らない場合でも要支援・要介護になるリスクが高くなります。厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)によると、骨折・転倒は認知症、脳血管疾患(脳卒中)に続き、要支援・要介護の原因の第3位(全体の13.9%)にのぼります。要支援・要介護になると、その人らしい生活を送るうえで何らかの援助が必要となり、活動範囲が減少して身体機能が低下していくだけでなく、別の病気を併発しやすくなるという悪循環に陥り、ますます死亡リスクを高めることになるのです。


骨卒中にならないために

骨卒中を防ぐには、骨を丈夫に保つことが重要です。とくに女性は閉経を機に骨粗鬆症のリスクが高くなります。自覚症状がなく進行してしまい、骨折を機に骨粗鬆症が見つかる人も少なくありません。その一度の骨折が要支援・要介護、さらには死亡リスクにつながることから、重要になるのが予防対策です。

●骨粗鬆症を防ぐには
骨粗鬆症の原因には、加齢のほか、遺伝的な要因、閉経など自分では変えられないものもありますが、生活習慣を変えることでそのリスクを減らすことは可能です。とくに気を付けたいのが次のような生活習慣です。

・喫煙
・多量の飲酒
・低体重
・運動不足
・カルシウム不足

このほか、ステロイド薬の服用も骨密度を低下させるため、主治医とよく相談したうえで薬を継続すべきかどうかを判断しましょう。ほかの病気が原因でステロイド薬を使用している人は骨粗鬆症の検査を定期的に受けて早期発見に努めましょう。

●骨粗鬆症は早期発見・治療が重要
骨卒中を防ぐためには、骨粗鬆症の早期発見・治療が重要です。しかし、骨粗鬆症財団の調査によると、骨粗鬆症検診の受診率は全国平均で5.7%にとどまっているのが現状です。
骨粗鬆症検診は、健康増進法に基づいて問診や骨量測定が行われています。対象となるのは40~70歳の女性(5年ごと)で、自治体や健康保険組合などで行われています。40歳以降は定期的に検診を受けることで骨粗鬆症を早期に発見し治療につなげていくことが将来の骨卒中の予防になります。

参考
・鳥取県医師会:保健の窓 骨卒中予防の最新情報
https://www.tottori.med.or.jp/mado/20231023
・厚生労働省:2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況 Ⅳ 介護の状況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/05.pdf
・骨粗鬆症財団:骨粗鬆症とは
https://www.jpof.or.jp/osteoporosis/
・日本整形外科学会診療ガイドライン委員会大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン策定委員会:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021 改訂第3版.南江堂,2021.
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00625/
・日本整形外科学会:脊椎椎体骨折
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/vertebral_compression_fracture.html
・日本整形外傷学会:骨折の解説 こどもの骨折
https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip19.html
・厚生労働省:健康増進法第17条第1項及び第19条の2に基づく健康増進事業について
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5161&dataType=1&pageNo=1
・日本神経学会:脳神経内科の主な病気 (疾患・用語編)脳卒中
https://www.neurology-jp.org/public/disease/nosottyu.html

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