致死率40%以上のハンタウイルス、日本での感染拡大の可能性は
国立健康危機管理研究機構(JIHS)は2026年5月6日、南大西洋を航行中のクルーズ船「ホンディウス号」で集団感染の疑いが出たハンタウイルスについて、仮に感染した乗客が日本に入国した場合でも「国内で人から人への感染で感染拡大する可能性は低い」と発表した。ハンタウイルスの感染拡大の可能性は本当に低いのだろうか。
クルーズ船で3人死亡、ハンタウイルス感染症の発生
世界保健機関(WHO)によると、2026年5月2日、南大西洋を航行中のクルーズ船でハンタウイルス感染症の発生が報告された。5月13日時点で、ハンタウイルスに感染したことが確認された、または感染が疑われているのは合計11人で、うち3人が死亡している。
クルーズ船は5月10日にカナリア諸島に到着した後、日本人1人を含む約150人の乗船客らは健康状態の検査で問題がないと判断されて下船。乗船客の出身国などが手配した航空機で順次帰路に就いた。乗船客全員はWHOの勧告により健康観察が求められる。
ハンタウイルスとは
ハンタウイルスは、ハンタウイルス科オルソハンタウイルス属に属するウイルス群の総称で、主にげっ歯類を自然宿主とする。
ユーラシア大陸に分布する型は「腎症候性出血熱(HFRS)」を、南北アメリカ大陸に分布する型は「ハンタウイルス肺症候群(HPS)」を引き起こすことが知られている。
日本国内では、1970〜1980年代に実験用ラットを介した腎症候性出血熱の感染報告があるものの、感染症法施行後の1999年以降、国内感染例は確認されていない。また、ハンタウイルス肺症候群の患者発生はこれまで報告されていない。
主な感染経路はげっ歯類との接触
ヒトへの感染は、ハンタウイルスを保有するげっ歯類の糞や尿が粘膜や傷口に直接触れたり、排泄物の含まれたほこりを吸いこんだり、げっ歯類に咬まれたりすることが原因となる。
基本的にヒトからヒトへ感染するものではないが、例外的に、アルゼンチンとチリで、ハンタウイルスの一種であるアンデスウイルスのヒトからヒトへの感染が報告された過去事例がある。なお、WHOの発表により、今回のクルーズ船の感染者は全員がアンデスウイルスに罹患したと確認されている。
主な症状
ハンタウイルス肺症候群の場合は、潜伏期間は1~5週間と推定されている。発熱、頭痛、悪寒がみられる(1~4日)。その後、呼吸困難、酸素欠乏状態が急速に出現し、呼吸数の増加、脈拍数の増加が顕著になる。入院時の症状として発熱、筋痛、悪寒がほぼ全例でみられ、吐き気、嘔吐、下痢および倦怠がしばしばみられる。約40%が死亡する重症度の高い疾患だ。なお、アンデスウイルスに感染した場合、ハンタウイルス肺症候群を引き起こす可能性がある。
ハンタウイルスは日本で広がるのか
ハンタウイルスの自然宿主は、ウイルスの種類ごとに特定のげっ歯類が決まっている。そのため、自然宿主となるげっ歯類が生息していない地域にウイルスが入り込んでも、ウイルスが定着して広がることはない。北米ではシカネズミ、南米ではピグミーライスラットなどがウイルス保有動物として知られているが、これらのげっ歯類は日本国内には生息していない。クルーズ船は南米から出航していることから、日本国内でクルーズ船の原因となったハンタウイルスに感染する可能性は極めて低いと考えられる。
JIHSは、過去のアンデスウイルスの感染事例においても、適切な対応によりさらなる伝播抑制につながったことから、国内でヒトからヒトへの感染により感染拡大する可能性は低いとの考えを示し、冷静な対応を呼びかけている。
出典:国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「国外航行中のクルーズ船におけるハンタウイルス感染症事例について」
https://id-info.jihs.go.jp/risk-assessment/hantavirus-pulmonary-syndrome/20260506/index.html
出典:厚生労働省 検疫所FORTH「ハンタウイルス肺症候群に関する注意喚起」
https://www.forth.go.jp/topics/2026/20260512_00001.html
出典:WHO(World Health Organization)「Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country」
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2026-DON601